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スポーツドクターコラム

第二期VOL25.「血腫を防ぐことで免れる骨化性筋炎」

2013/12/27

骨化性筋炎



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何らかの原因によって筋肉の線維・骨膜などが損傷を受けて、本来骨がない筋肉の中に骨と同じ骨組織ができる『骨化性筋炎』という疾患があります。体のどこにでも起こり得る疾患ですが、今回はアメリカンフットボールやラグビー、サッカー、バスケットボールなどコンタクトスポーツで多く見られる、大腿四頭筋の『骨化性筋炎』について紹介します。

大腿四頭筋は太ももの前面にある筋肉で大腿直筋・外側広筋・内側広筋・中間広筋の4つの筋肉から構成され、ひざ関節を伸展させる役割などを担っています。例えばアメリカンフットボールの場合、この大腿四頭筋に頭部や肩、ひじ、ひざが当たり打撲を負ったときや筋肉の損傷後に『骨化性筋炎』が起こることがあります。『骨化性筋炎』は損傷の程度が関係してくる疾患で、損傷により現れる血腫が大きく影響します。血腫ができた部分にカルシウムが異常集積し、骨組織を筋肉内に形成してしまうのです。血腫自体の大きさもさまざまで、大きな血腫であっても早期に治療を行い、血腫を取り除くことができれば復帰に時間はかかりません。以前は手術により筋肉を裂いて血腫を取り出していたため、筋力も落ち、復帰にも時間がかかっていました。しかし、現在は血栓溶解剤を血腫内に注射して、固まった血腫を溶かして吸い出します。この方法であれば、場合によっては3週間ほどで治ることもあります。

一方で問題なのが、大きな血腫ができず出血が瀰漫性だった場合です。瀰漫性とは一面にはびこっている状態のことで、お肉に例えると霜降りをイメージしてもらうと分かりやすいと思います。瀰漫性の出血は大きな血腫と違い、簡単に吸い出せないため自然治癒を待つしかありません。その間、血腫に対して処置が行えませんから前述した通り、血腫内にカルシウムが異常集積し『骨化性筋炎』になりやすくなります。直接関節に外傷もないのに関節がうまく曲がらない、筋肉が突っ張って痛いなどの症状が現れたら『骨化性筋炎』を疑います。関節が曲がらないのは筋組織内の骨化により筋肉が動かせなくなるためです。実際にレントゲンを撮ると、筋肉内にあるはずのない骨組織が形成されているのが確認できます。

骨組織が形成されてしまった場合、基本的には消失が確認されるまで安静にしながら温熱療法を行います。当然、大腿四頭筋に負荷のかかる運動は避けなければなりません。ただし、アスリートのように早期復帰が必要なケースでは、骨の発育異常を抑制する骨代謝改善剤を用います。骨代謝改善剤は、脊髄損傷後や股関節形成手術後の異所性骨化に用いられる薬剤です。そのため、大腿四頭筋の『骨化性筋炎』での使用に関しては日本では保険適応外となっており、まだまだ認知されていません。ですが、その効果は諸外国及び学会等で認められており、諸外国では当然のように実践されています。骨代謝改善剤を使用すると骨組織は徐々に吸収されて薄くなり、最終的になくなります。

『骨化性筋炎』を防ぐ上で最も大切なことは“血腫を作らない”ことです。そのためには受傷時の初期治療が非常に重要で、できるだけ早くRICE処置(R=Rest、患部を安静に保つ。I=Ice、患部を冷やす。C=Compression、患部を圧迫する。E=Elevation、患部を挙げる)を行います。RICE処置を行って、安静にすれば『骨化性筋炎』は防げるのです。逆に治療を怠り、筋肉内に骨組織が形成されてしまうと、復帰までには大幅に時間がかかります。最悪の場合、治療に半年ほどかかってしまうのです。




スポーツドクターコラムは整形外科医師 寛田クリニック院長 寛田 司スポーツ医療スポーツ障害症状治療について分りやすく解説します。

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