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第二期 Vol.14 「ボルトが苦しんだ脊柱側弯症」

2013/03/01

脊柱側弯症



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北京、ロンドン五輪で男子100メートルを連覇したウサイン・ボルトが、脊柱側弯症だということをご存知でしょうか。そして彼の症状は、すでに完治したわけではなく、現在もその障害と向き合い競技を続けています。
ボルトは17歳で世界ジュニア新記録を記録するなど、若くしてその才能を認められた存在でしたが、その後左ハムストリングのケガに悩まされました。そしてその原因が脊柱側弯症だったのです。脊柱側弯症とは本来まっすぐであるはずの脊柱が、S字に弯曲している症状を指します。一つひとつの椎体が立体的に少しずつずれていくことで歪みを生むのです。脊柱変形にはそれぞれ前後左右に弯曲していくものがありますが、一般的には左右に曲がる側弯症が最も多いと言えるのではないでしょうか。
ボルトのケースは脊柱側弯症が体のずれを生み、右肩が極端に下がるランニングフォームとなっています。驚くべきことに走行時の左右のストライドが20センチも違っているのです。そのずれが体に負担を掛けて、左ハムストリングの故障を頻発させていました。
治療法としては整体やマッサージ、コルセットを装着し、弯曲の矯正と進行を遅らせることを試みます。また、胸椎を例にとると弯曲が50度を超えれば、手術を考えなければいけません。胸椎は最も側弯症が発生しやすい場所です。胸椎側弯症が進行すると、臓器を圧迫し肺や心臓の機能が低下する恐れがあります。それは腰椎側弯症においても同じことが言え、椎間板に負担が掛かることで腰痛や足のしびれの原因となります。10度程度の弯曲では素人目には分かりませんが、症状が進めば左右の乳房が不同になったり、背中が出っ張るなど美容的な問題を引き起こすことは、女性にとっては精神的に苦痛なはずです。
脊柱の弯曲については原因の分からないものがほとんどです。姿勢の悪さなども原因の1つとしては考えられますが、それを理由にすることは今の段階ではできません。欧米では乳幼児に多く、日本では思春期に多いのが特徴で、男性よりも女性に見られる障害と言えます。
最初に述べたように、ボルトが実際に脊柱側弯症から回復したかと言われれば、そうではありません。それは昨年のロンドン五輪で見せた独特のフォームを見ても明らかです。実際に診察したわけではないので分かりませんが、脊柱側弯症が発覚した17歳のときからあまり症状は進行していないのではないでしょうか。
また、ボルトは自身の走りを完成させるために、医学の学問体系が進んでいるドイツでトレーニングを行ったといいます。そこで治療を行ったというよりは、足に負担をかけない体作りと体型にあったフォームを模索したのでしょう。体を支える体幹部を徹底的に鍛えたことにより、体のバランスを整え、一流の競技者へと歩みを進めたのです。
今後人類がどのくらい100メートルのタイムを縮めていくかは分かりませんが、もしボルトに脊柱側弯症という障害がなく正しいフォームで走ったらと考えると人類未到達地への夢は膨らみます。




スポーツドクターコラムは整形外科医師 寛田クリニック院長 寛田 司スポーツ医療スポーツ障害症状治療について分りやすく解説します。

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