トップページ > スポーツドクターコラム > スポーツドクターコラム

スポーツドクターコラム《スポーツドクターコラム》

No.48「Jリーグにおけるドーピング問題について」

2007/08/10

ドーピング



ドーピングとは、競技能力を増幅させる可能性がある手段(薬物あるいは方法)を不正に使用することを言います。その世界共通のルールを規程しているのが、世界アンチ・ドーピング機構(WADA)です。ただアメリカのメジャーリーグなど、WADAに属していない団体もあります。以前は国際サッカー連盟(FIFA)もその1つでした。しかし昨年、FIFAはWADAと和解し、『禁止薬物、及び禁止行為のみWADAの規定を遵守する』という形で現在に至っています。

このドーピングについて、今年4月には日本でも大きな問題が起こりました。J1川崎の選手に対して行われた治療がドーピング違反となり、制裁が科されたのです。そして私を含めたJリーグ31クラブのチームドクターは、連名でこの処分に異議を唱えました。

日本のドーピングに関しては、文部科学省が国内ドーピング防止機関として日本アンチ・ドーピング機構(JADA)を指定しています。JADAはWADA規程に従ってドーピング防止活動を行っており、Jリーグの規程も同様です。そこで今回最も問題になったのは「特別な症状がない選手に対して、元気になるための注射を打った」とされたことでした。WADA規程では『正当な医療行為を除き、静脈内注入は禁止』しています。問題と言われる行為が事実であれば、確かにドーピング違反と言えるでしょう。しかし治療を行ったとき、当該選手は38・5度の発熱に加え、脱水、下痢など風邪の諸症状もみられました。体調不良は明らかで、水分補給として点滴を行う中にビタミンB1を投与することは、正当な医療行為に他なりません。

また治療を行うにあたり、禁止物質、あるいは禁止方法を使用する場合に必要な『治療目的使用の適用措置(TUE)』を事前に申請していなかったことも、一部で問題視されました。ただこの件についても『緊急時に限定されず、正当な医療行為である場合はTUEを必要としない』ことが、07年1月に変更されたWADA規程で明文化されています。事前に申請がなくても、医師の適切な判断に基づいた正当な治療であれば、注射や点滴は認められているのです。

しかしJリーグのアンチ・ドーピング委員会は不必要なTUEを提出させた上に、それに基づいて調査した結果「特別な症状がない選手に対して、元気になるための注射を行った」と発表しました。この一連の行為は、チームドクターの1人として非常に遺憾です。

既にJADAは今回の件に関して「正当な医療行為であり、ドーピングにあたらない」とコメントしています。Jリーグもこの事実を重く受け止め、内外に説明責任を果たすべきではないでしょうか。




スポーツドクターコラムは整形外科医師 寛田クリニック院長 寛田 司スポーツ医療スポーツ障害症状治療について分りやすく解説します。

飛翔会の整形外科クリニック


スポーツ支援活動実績 物販事業