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スポーツドクターコラム
第二期 Vol.20「早期回復に効果的な高気圧酸素療法」
2013/07/19
高気圧酸素療法
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今回は体内に高濃度の酸素を人為的に取り込み、細胞を活性化させて回復促進を図る酸素療法のひとつである『高気圧酸素療法』を紹介します。
私たちが日常生活の中で大気中から体に取り込む酸素には、『結合型酸素』と『溶解型酸素』の2種類があります。『結合型酸素』は血液中のヘモグロビンと結合して体内を循環するのですが、ヘモグロビンの数以上増やすことはできないため限りがあります。一方の溶解型酸素は、「液体に溶け込む気体の量は、その気体の圧力が高ければ高いほどよく溶ける」という『ヘンリーの法則』を利用することによって増やすことができるのです。また後者は前者と比較して小さいため、毛細血管の末端まで酸素が行き届き、より多くの酸素を取り込むことができます。
この性質を利用したものが『高気圧酸素療法』です。気圧を大気圧の約1.5~2倍の1.5~2気圧に上げた機器内で、100%の純酸素を30~60分取吸引するものですが、通常の10~15倍の酸素を取り入れられると言われています。人は負傷して再生しようとするときに、血液中から送られる酸素を使うため、酸素供給量が増えると回復効果が早まるのです。
02年のサッカー日韓W杯を目前に左足の第二中足骨を骨折したデビッド・ベッカム(元イングランド代表)が『高気圧酸素療法』を使用して、わずか2ヵ月弱で復帰を果たし、W杯のピッチに立って活躍したことから注目を集めました。日本でも98年の長野オリンピックでスピードスケートの清水宏保選手が使用して効果が示されて以来、多くのアスリートが利用するようになりました。
ケガや疲労の回復だけでなく、体脂肪の減少や肌荒れの改善といった美容効果も期待できる治療法ですが、上記のケースでは保険が適応されないため治療費は実費負担となります。治療自体も一度ですぐに効果が表れるわけではなく、継続性が求められるためその分負担も増えてしまいます。ベッカムのようなトップアスリートで緊急を要する場合に利用することはあっても、一般的には骨折などの疾患の治療にこの治療法が用いられないのはそのためです。
保険が適応されるのは、急性一酸化炭素中毒などのガス中毒や減圧症、突発性難聴といった救急時のほか、脳血管障害や脊髄神経疾患、骨髄炎、熱傷および凍傷などの疾病・疾患の治療の際です。また、治療によって酸素中毒や気圧外傷といった合併症を発症する可能性もあるので、医師に相談してから判断しましょう。
酸素による回復促進と聞くと、『酸素カプセル』を思い浮かべる人もいるかもしれません。こちらも06年に、当時早稲田実業高の斎藤佑樹投手(日本ハム)が使用したことからクローズアップされ、今では美容サロンや接骨院などにも導入されており、一般の方も目にする機会が多くなったのではないでしょうか。しかし似たような効果を得られるものであっても、『高気圧酸素療法』とは異なります。体内に酸素を送り込み、低酸素状態を解消しダメージや疲労を回復させるものであっても、気圧や酸素濃度が異なるため体内に取り込むことができる酸素量は異なります。そのため治療効果にも大きな違いが生じます。
『高気圧酸素療法』にはいくつかのデメリットがありますが、これまでに多くの効果が実証されていることも事実です。ケガからの早期回復を目指したいときには、医師と相談の上で取り入れてみても良いのではないでしょうか。
スポーツドクターコラムは整形外科医師 寛田 司がスポーツ医療、スポーツ障害の症状、治療について分りやすく解説します。