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スポーツドクターコラム
No.52「野球選手に多くみられる有鉤骨骨折」
2007/12/10
有鉤骨骨折
有鉤骨は、手のひらの中央からやや下、小指寄りにある骨で、手のひら側に突出した鉤突起を持っています。この鉤の部分は有鉤骨体部からマストのように立っているため、手のひらに強い打撃を受けると骨折しやすい部位と言えるでしょう。
スポーツによる主な受傷機転は、
(1)野球、ゴルフ、テニスなどのラケット競技で手のひらに衝撃が加わった場合
(2)スポーツ中に転倒して手のひらを強く衝いた場合
の2つです。特に(1)のケースが多く、野球選手にはしばしばこの障害がみられます。ボールを打つときに直接手のひらに強い衝撃を受けたり、バットを強く握った手の中でグリップエンドがずれることで骨折してしまうのです。
中でもファールチップをしたときは、自分の力がボールに伝わらずバットを持った手に負荷がかかるため、負傷しやすくなります。バットを長く持ち、有鉤骨の位置でグリップエンドを握っている選手は、より注意が必要でしょう。またテニスのようにボールとラケットの質量が小さい競技の場合は、1回の衝撃というよりも繰り返しの衝撃が原因となって疲労骨折することもあります。
鉤状の突出した部分を骨折すると、折れた骨が有鉤骨の近くを通る尺骨神経を圧迫することが考えられます。小指がしびれたり力が入らないときは、神経障害を起こしていると言えるでしょう。この状態では思うようにバットやラケットを扱うことはできませんが、治療すれば十分にスポーツ復帰は可能です。
診断には、まずレントゲンを用います。ただ普通に正面や横から撮影しただけでは判別できません。手関節を最大背屈位や軽度回外位にし、特殊撮影を行うことで明らかになる場合もあります。 より正確に診断するには、CTまたはMRIの断層撮影が有効です。特に完全に骨折していないヒビの入った状態でも判別できるMRIは、非常に有用と言えます。症状が悪化する前であれば、保存療法で治癒させることも考えられるでしょう。
ただ完全に骨折しているときは、多くの場合で手術的治療が選択されています。有鉤骨は骨癒合しにくく、手術をした方が社会生活、スポーツ活動への復帰が早くなる上に、合併症の防止にもつながるからです。
手術の方法としては、骨接合術と鉤切除術の2つがあります。ただ鉤の断面が湾曲していることや、骨そのものが小さいこともあり、骨接合術はかなり難しいでしょう。うまくいかなかった場合は偽関節形成や屈筋腱の皮下断裂を起こす可能性もあるため、鉤切除術に優るものはないと考えられています。
スポーツドクターコラムは整形外科医師 寛田クリニック院長 寛田 司がスポーツ医療、スポーツ障害の症状、治療について分りやすく解説します。