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スポーツドクターコラム

第二期Vol.24「さまざまな要因から引き起こされる横紋筋融解症」

2013/11/26

横紋筋融解症

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これから忘年会シーズンを控え、多くの方がアルコールを摂取されるでしょう。しかし、ご存知の通り大量のアルコール摂取は非常に危険です。今回紹介する『横紋筋融解症』はアルコール摂取や過度の運動が原因でも起こる病態です。
【2025年注訳・・・近年では、アルコール摂取後に高強度の運動や脱水が重なることで発症リスクが急増することが報告され、特に若年層のスポーツイベント後に救急搬送される事例が増えています。また、アルコール性横紋筋融解症は肝機能障害を伴いやすく、腎障害との二重負荷に注意が必要です。】
筋肉には横紋筋、平滑筋、心筋という3種類があります。見た目にスジが見えて意識的に動かせる横紋筋、スジが無く自分の意志でコントロールできない平滑筋、心臓の壁の心筋層をつくっているのが心筋です。私たちの身体を動かしている横紋筋に起こるのが『横紋筋融解症』です。何らかの原因により横紋筋が障害され壊死、融解することでミオグロビンと呼ばれる筋肉の成分が血液中に大量に流出し、尿細管に詰まるなどして急性腎不全や多臓器不全といった生命に関わる病変を引き起こしてしまうのです。『横紋筋融解症』というのは単一の病を指すのではなく、これら一連の病態につけられた名前です。
【2025年注訳・・・ミオグロビン尿症の早期診断には、従来の尿検査だけでなく、血中ミオグロビンや新規バイオマーカー(例:NGAL=尿中好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン)の測定が急性腎障害予測に有効とされています。】
原因は直接的要因と間接的要因の2つに分けられます。直接的要因は、交通事故や骨折、2時間以上筋肉が圧迫された場合などです。実際に95年の阪神・淡路大震災や05年のJR福知山線脱線事故では、多くの方が罹患しました。一方、間接的要因には冒頭に挙げた過度のアルコール摂取に加え、高温多湿下での長時間の運動などが挙げられます。血液中のカリウムが低下することで、筋肉の代謝が不安定となり発症します。同じく、熱中症も『横紋筋融解症』をきたす可能性があります。体温調節が行えなくなり、深部体温が40度を超えたときに筋肉の壊死、変性が起こります。スポーツにおけるハードなトレーニングも同じで、マラソンなど長時間に渡って筋肉を酷使したときに発症することがあります。これら以外にも、薬剤による副作用、糖尿病や感染症の合併症として発症する場合があります。
【2025年注訳・・・スタチン系高脂血症治療薬による薬剤性横紋筋融解症は近年も報告が続いており、腎機能低下や多剤併用がある場合は特に注意が必要です。また、COVID-19感染後に免疫応答の異常から横紋筋融解症を起こすケースも報告されています。】
発症時には自覚症状として筋肉痛、筋力低下、脱力、麻痺、赤褐色尿が見られます。筋肉痛や筋力の低下などは、一般的な運動後にも起こることなので分かりづらいかもしれません。赤褐色尿については血尿のような尿が出るので見た目にも分かりやすいと思いますが、血尿とは異なり潜血反応は現れません。赤くなるのは尿中にミオグロビンが溶け出しているためで、このミオグロビンが腎不全の原因になります。赤い尿が出ること自体が緊急を要することなので、すぐに受診しましょう。検査は血液検査と尿検査によって行い、血液検査では筋肉の崩壊によって上昇するCK(クレアチニンキナーゼ)の数値を、尿検査ではミオグロビンの数値を計ります。また、医薬品を服用中に症状が現れた場合は注意が必要です。服用を中止しなければならないこともあります。
【2025年注訳・・・救急現場ではCK値が5,000 U/Lを超える場合、腎障害リスクが高いとされ、積極的な輸液療法が推奨されます。また、ポータブル尿試験紙による迅速スクリーニングが普及し、診断の初動が早まっています。】
治療方法は、腎機能障害の有無によって異なります。障害がない場合は、輸液によって水分量を保ちながら腎臓の保護を図り、ミオグロビンによる2次障害を予防します。一方、急性腎不全が進行しているケースでは、血液を浄化するために血液透析を行います。腎障害は特に専門医の関与が必要になるので、症例ごとに適切な治療法が検討されなければなりません。また、罹患原因となっている疾病がある場合、そちらの治療も並行して進めます。
【2025年注訳・・・近年は持続的血液濾過透析(CHDF)が重症例に用いられ、循環動態の安定化を保ちながらミオグロビン除去を行えるようになっています。】
どのような疾病にも言えることですが、早期発見、早期治療が予後を良好なものにします。『横紋筋融解症』は生命に関わる可能性がある病態ですから尚更です。発見が遅れてしまうと、いかに治療を行ったとしても後遺症が残ってしまうこともあります。原因を理解し、症状・兆候を自覚しなければいけません。

横紋筋融解症 Q&A(2025年版)

Q1. 横紋筋融解症はどれくらいの頻度で起こる病気ですか?

A1. 一般的にはまれですが、熱中症や薬剤副作用、マラソン大会など高負荷運動の場面では報告例が増えています。救急搬送患者の0.1〜0.2%程度が該当とされます。

Q2. 早期に気づくためのサインは何ですか?

A2. 激しい筋肉痛、極端な筋力低下、赤褐色尿が代表的です。特に尿の色変化は受診の重要なきっかけになります。

Q3. 予防のためにできることは?

A3. 高温多湿下での長時間運動を避け、水分と電解質補給をこまめに行うこと、薬剤の副作用情報を把握することが有効です。

Q4. どの薬が横紋筋融解症を起こしやすいのですか?

A4. スタチン系高脂血症治療薬や一部の抗精神病薬、抗ウイルス薬などが知られています。腎機能低下時や多剤併用時にリスクが高まります。

Q5. 治療後の後遺症はありますか?

A5. 発見・治療が遅れると腎機能障害が残ることがあります。重症例では慢性腎不全に進行する場合もあります。

Q6. 市販薬やサプリで注意すべきものは?

A6. 高用量のビタミンDや一部の筋肉増強サプリで電解質異常を起こし、間接的に発症することがあります。

Q7. 再発予防は可能ですか?

A7. 原因を特定し、その要因を避けることで再発を防げます。薬剤性の場合は代替薬への変更が基本です。

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