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スポーツドクターコラム

変形性膝関節症の治療方法の選択について

2025/08/06




変形性膝関節症は、膝の関節軟骨がすり減ることで関節の動きが悪くなり、痛みや腫れを引き起こす慢性の疾患です。加齢とともに増加する傾向がありますが、必ずしも年齢だけが原因というわけではありません。こうした変化は加齢だけでなく、体重、筋力の低下、関節の使い方の癖など、さまざまな要因が絡み合って起きてくるものです。


特に、ジャンプや方向転換、接触プレーなどで膝に負荷がかかるバレーボールやバスケットボール、サッカー、ラグビーといったスポーツの経験者にもよく確認されます。


症状が軽い段階であれば、まずは保存療法を中心に経過を見ながら対応していくことが多いです。治療法にはいくつかの選択肢がありますが、一般的にはまずヒアルロン酸の関節内注射がよく行われます。


ヒアルロン酸注射は関節の潤滑性を改善し、炎症を抑えることで痛みを和らげる効果があります。低分子タイプ(商品名「アルツ」など)では、週1回の注射を5回程度繰り返すのが標準的です。一方で高分子タイプ(商品名「スアップ」など)では、週1回の注射を3回程度行うことで、より長期間にわたって効果が持続することがあります。分子の大きさや粘性によって関節内にとどまる時間が異なり、それが注射頻度や効果の持続に影響します。


ヒアルロン酸で症状が改善しない場合や、進行した症例では、治療選択肢に再生医療が加わることがあります。再生医療には、患者さん自身の血液から抽出した成分(PRPやAPSなど)を膝関節に注入する方法があります。関節の滑膜炎症を抑えたり、軟骨周囲の組織環境を整えることが期待されており、手術を回避したい方やヒアルロン酸の効果が限られてきた方にとって、有力な中間選択肢となることがあります。


たとえば、MRI検査で明らかな骨髄浮腫を伴わず、関節裂隙(関節のすき間)がある程度保たれている症例では、APS療法を行うことで痛みが軽減され、歩行距離や日常生活動作の改善が得られるケースがあります。私の臨床経験でも、このようなタイプの膝関節症例に対しては、再生医療が有効と感じられるケースが少なくありません。



また、膝周囲の感覚過敏や夜間痛、階段昇降時の刺すような痛みなどに対しては、クーリーフラジオ波(Coolief)による神経焼灼治療が行われることもあります。これは、痛みの伝達経路となる末梢神経を高周波でブロックする方法で、特に既存の治療で満足な効果が得られなかった場合に、QOL(生活の質)の改善につながる可能性があります。私自身の診療現場でも、夜間痛や膝周囲の感覚過敏に悩む患者さんにクーリーフ治療を行い、日常動作が楽になったと実感される例が複数ありました。


さらに進行したケースや、保存療法や注射治療でも痛みが強く、歩行や日常生活に著しい支障がある場合には、人工関節置換術が選択肢として考慮されます。これは膝の関節を金属や樹脂に置き換える手術で、長期間の痛み軽減や可動域の回復が期待されますが、一方で術後のリハビリや一定の侵襲性を伴うため、他の治療選択肢との比較検討が必要になります。


どの治療法が最適かは、膝の状態や画像所見、生活スタイルや希望される活動レベルによって異なります。まずは整形外科専門医による診察を受け、可能であればMRIなどの画像検査で関節の状態を評価したうえで、自分にとって無理のない治療方針を一緒に考えていくことが大切です。



よくあるご質問(Q&A)



Q. 立ち上がる時膝が痛いです。変形性膝関節症でしょうか?


A. 膝の痛みはさまざまな原因で起こりますが、立ち上がる・歩き始めるなどの動作開始時に痛む場合、変形性膝関節症の可能性があります。ただし、診断には問診・診察・レントゲン等が必要です。早めに整形外科を受診してください。




Q. 人工関節を勧められました。どうするか悩んでいます


A. 人工関節置換術は非常に多くの方に行われている治療で、強い痛みや歩行困難を抱えている場合に大きな改善が見込めます。一方で手術には一定のリスクやリハビリが伴います。再生医療や神経治療など、術前に試せる保存的治療が残っている場合もありますので、主治医とよく相談して納得した上で判断するのがよいでしょう。




Q. 再生医療は誰にでも効果がありますか?


A. 効果には個人差がありますが、画像所見で関節のすき間がある程度保たれており、骨の変形や炎症が重度でない場合には、再生医療が有効なことがあります。MRIやレントゲンなどの検査を参考に、適応があるかどうかを判断します。また、有効な場合も効果の持続には継続した投与が必要です。自由診療のため、将来的に治療費は高額となる可能性があります。




Q. クーリーフ治療とはどういうものですか?


A. クーリーフラジオ波治療は、痛みを伝える神経に対して高周波の熱エネルギーを用いて信号をブロックする治療法です。薬や注射で改善しない慢性の膝痛や感覚過敏、夜間痛に対して有効なことがあります。持続的な効果が期待される一方で、治療対象の神経の特定や適応判断には専門的な評価が必要です。




Q. 痛み止めや湿布だけではだめですか?


A. 初期段階であれば、消炎鎮痛剤や湿布などで対応することもあります。ただし、長期間の内服や貼付だけでは根本的な改善が難しいこともあり、症状の程度に応じてヒアルロン酸注射(例:「アルツ」や「スアップ」など)や他の保存的治療の併用が検討されます。




Q. 手術しか方法がないといわれましたが、他の選択肢はありませんか?


A. 手術が最終的な選択肢になることもありますが、それ以外の保存療法や注射、再生医療、神経治療などの選択肢もあります。年齢や活動レベル、画像所見を踏まえて、複数の方法を比較検討することが重要です。









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