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スポーツドクターコラム

ピラティスの本来の目的と広がるリスクについて

2025/10/07

ピラティスの本来の目的と広がるリスクについて 最近は雑誌やSNSでもピラティスという言葉をよく目にします。身体を引き締めたい、きれいな姿勢を手に入れたい──そんな思いから始める方も多いと思います。けれど、その一方で事故やけがの相談が増えているのも事実です。背景には、きちんとした教育を受けていない人による指導があります。 実際に、私の外来を訪れた40代の女性は「お腹を引き締めたい」とあるスタジオでピラティスを始められたそうです。ところが、強いブリッジやひねりの動作を繰り返すうちに腰痛が悪化してしまいました。診察の結果、体幹・筋力が十分でない段階で無理な動作を課せられていたことが原因と分かりました。現在はピラティスを一旦休止し、理学療法士よるリハビリに専念していただいています。正しい段階を踏めば十分に改善が期待できる状態であり、少しずつ快方に向かっています。 本来ピラティスは、美容目的の運動ではなく、ヨーロッパでリハビリを目的に生まれた方法です。身体の正しい機能を取り戻す医療的なアプローチとして発展してきました。それが流行とともに「身体型づくりの運動」として広まる中で、医療やリハビリの背景が忘れられ、安全性よりも見た目の効果ばかりが強調されるようになってしまっています。 ピラティスを正しく指導できるようになるためには、長期の学びが欠かせません。たとえば国際的に認められているポールスターピラティスの認定インストラクター資格では、おおよそ100以上の全種目を自身が正しくエクササイズを実践できるかのデモンストレーションテストをクリアし、次にクライアントへの指導も同様に全種目を正しく安全に指導できるかのティーチングテストをクリアして、ようやくインストラクター資格受験のスタートラインに立てるのです。受験までに早い者で半年、通常1年程度かかるのが一般的です。ピラティスは短期講習や自己流で「教えられる」ものではないのです。 では、実際にピラティスを受ける側が一番望んでいることは何でしょうか。多くの方が期待するのは、やはりプロポーションの改善です。ヒップアップやウエストのくびれ、背筋の伸びなどに憧れるのは自然なことです。ただ、こうした効果を狙った動作は、身体の状態によってはリスクになる場合があります。腰痛がある方がブリッジを繰り返すと腰に負担がかかり、体の柔軟性が不足している人がツイストを強く行うと腰や肋骨を痛めることがあります。背中の柔らかさが十分でないまま胸を大きく反らすと腰が反りやすく痛める、下腹を引き締めたいと無理にプランクを続ければ、腰だけでなく首や肩を痛めることもあります。体重が重い方がバランスボールの上でサイドリフトを行えば、転倒の危険もあります。 このように「身体の状態と動作のアンマッチ」が思わぬ事故につながります。だからこそ大切なのは、自分に合った段階を踏むこと。そして何より、専門教育を受けたライセンス保持者のもとで指導を受けることです。ピラティスは流行の運動ではなく、医療の知恵から生まれた方法です。だからこそ、正しく安全に取り組むことで、初めて本来の効果を安心して享受できるのです。 スポーツドクターコラムでは、整形外科専門医・寛田 司(寛田クリニック院長)が、スポーツ障害や変形性膝関節症、骨粗しょう症といった整形外科疾患、さらに再生医療の考え方や治療の選択肢について、整形外科分野に関心をお持ちのすべての方々の判断や理解の一助となるよう、臨床経験に基づいてわかりやすくお伝えします。

ピラティスに関するFAQ

Q1. ピラティスとヨガは何が違うのですか?

A. ヨガは呼吸や瞑想を含めた心身の調和を目的とし、ピラティスは筋肉・関節の正しい動き体幹の安定/リハビリを基盤にします。姿勢改善・機能回復を狙う点が大きな違いです。

Q2. ピラティスは誰にでも安全にできますか?

A. 身体の状態によっては注意が必要です。腰痛がある・柔軟性が不足している段階で難しい動作を無理に行うと悪化の恐れがあります。

例:ブリッジ/スワン(強い反り)ツイスト系(強いひねり)リフォーマーでの押し込み・ジャンプバランスボール上のサイドリフトなどは段階を踏まずに行うとリスクが高まります。必ず資格保持者の指導下で、自分に合ったレベルから始めましょう。

Q3. セルフでピラティス機器を利用できるスタジオに通っています。使い方を教えてください。

A. 機器のセルフ利用は非常に危険です。リフォーマーやキャデラック、バレルは設定を少し誤るだけで関節・筋肉への過負荷転倒のリスクがあります。必ず資格を持つ指導者の管理のもとで、安全性を確認しながら行ってください。

Q4. プロポーション改善(ヒップアップやウエストのくびれ)にも効果がありますか?

A. 適切に行えば効果は期待できます。たとえばブリッジツイスト系は臀部・腹斜筋の強化に有効ですが、無理をすると腰痛・肋骨周囲の損傷につながります。器具を使う場合も状態に応じた強度調整が必須です。安全に継続できることが最短の近道です。

Q5. 初めて始めるとき、どんなことに気をつければいいですか?

A. まず正規資格保持者の指導者を探すことが大前提です。そのうえで、自分の身体状態(腰痛・柔軟性・体重・筋力など)を正直に伝え、無理のない範囲から始めてください。グループレッスンでも初回は必ず状態共有をおすすめします。

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