スポーツドクターコラム
No.63「固定方法が重要な中手骨骨折(ボクサー骨折)」
2008/11/10
中手骨骨折
2025/11/07更新中手骨とは、手のひらと甲の間にある骨のことを言います。両手に5本ずつあり、各指の骨と手首の骨を繋ぐ役割があります。中手骨骨折は頚部骨折、基部骨折、骨幹部骨折、骨端線離開に分かれ、今回は中でも頻度の高い「中手骨頚部骨折」について紹介します。 頚部骨折は別名『ボクサー骨折』とも呼ばれ、ボクシングや空手など、拳を握った状態で相手や物などを殴った際の衝撃で負傷することがあります。ハードパンチャーのパンチが真っ直ぐきれいに入ったときは、第2、第3中手骨を骨折することがあります。また、一般の方が殴打した際は第4、第5中手骨を骨折する方が多く見られます。 症状としては、衝撃後に手部の激痛、腫脹、変形、運動障害などが見られます。他のスポーツでも例えば野球の場合では、スライディングや捕球動作時の手の着き方によって発生することもあります。ちなみに、デッドボール時に骨折することもありますが、直接外力のため骨がひどく転位することはないでしょう。他にはスキーをしていてストックを離さず転倒し、手を強打した場合等に見られ、スピードを競う大回転の競技者は特に注意が必要です。 治療方法は、骨に転位が見られる場合は麻酔をかけて徒手整復術を行いますが、一般的にはアルミニウム副子固定かギプス固定を行います。固定する際の注意点は、指を立てた状態ではなく、指の関節をすべて90度に曲げて整復固定をすることです。母指を除いた4本の指の腱は共同腱といい、4本の筋肉がまとまって1本の腱となり手首に繋がっているので、立てた状態で固定をすると、他の指を動かすことによって固定した指も一緒に動いてしまうため変形する場合があるからです。また、人間は曲げる筋肉の方が伸ばす筋肉より強くできています。90度に指の関節を固定しても他の指は自由に動かすことができ、なおかつ骨折した骨は転位することなく、しっかりと保存療法を行うことができます。近年、手指の屈曲が可能で、屈曲拘縮を生じさせない専用のギプスシーネを利用した装具も開発されており、スポーツへの早期復帰が可能になっています。スポーツ復帰を急ぐアスリートの場合、手術によって骨を安定させることで早期復帰を図るケースもありますが、保存療法と比較して感染や再手術のリスクもあるため、主治医との相談が欠かせません。 骨端線が残っている若年層は、2週間程度でほとんどの骨がくっつくでしょう。また、しっかりとした固定を行えば4~6週間で骨は元に戻ります。安静にすれば早期復帰も可能なため、焦らず保存療法に継続して取り組むことが重要です。 治療が遅れると指の力が弱くなったり、思うように指を動かせなくなるなどの後遺症が残る場合もあります。負傷後に痛みが継続して起こる際は早めに受診しましょう。 リハビリテーションでは握力回復や指の巧緻性(細かい動き)の再獲得が重要です。骨癒合後も柔らかいボールやグリップを用いた運動を取り入れることで、競技復帰後のパフォーマンス低下を防ぐことができます。
中手骨頚部骨折に関するFAQ
Q1. 骨折かどうかを自分で判断する方法はありますか?
A. 強い痛みや腫れ、拳を握ったときの変形がある場合は骨折の可能性が高いため、自己判断せずに整形外科を受診する必要があります。
Q2. 受診は何科に行けばよいですか?
A. 整形外科の受診が適切です。特にスポーツ整形の経験がある医師であれば競技復帰まで見据えた治療が可能です。
Q3. 保存療法と手術、どちらを選ぶべきですか?
A. 骨の転位の程度や競技復帰までの時間、職業での手の使用頻度によって異なります。一般的にプロ競技者やハイレベルの競技者の場合、試合や大会への早期復帰を目的として手術による内固定を選択するケースもありますが、一方で、アマチュア競技者や一般の方の場合は、保存療法(ギプスや副子固定)を選択することがほとんどです。その後のQOLも考慮し、医師と相談のうえで方針を決めましょう。
Q4. ギプス固定の間、指は全く動かせないのですか?
A. 骨折部を安定させながら、他の指や関節は動かせるように工夫されます。完全に動かさないと拘縮(関節が固まる)のリスクがあるため、医師やリハビリ指導に従ってください。
Q5. スポーツに復帰できるまでどのくらいかかりますか?
A. 多くの場合は4〜6週間で骨が癒合し、軽い練習を再開できます。競技レベルに戻るにはリハビリを含めて2〜3か月かかることもあります。
Q6. ギプスが取れました。スパーリングやサンドバッグ打ちは可能ですか?
A. ギプスが外れた直後は骨はくっついていても、周囲の筋力や握力がまだ十分に回復していないことが多いです。無理にスパーリングや強い打撃練習を行うと、再骨折や変形癒合のリスクがあります。まずはリハビリで握力・手首の安定性を回復させ、その後に軽いシャドーやミット打ちから段階的に復帰していくことが推奨されます。復帰時期は骨癒合の程度や個々の回復速度によって異なるため、主治医や理学療法士の確認を必ず受けてから再開してください。
Q7. 片手での練習はしても大丈夫ですか?
A. 骨折していない手だけで打撃を続けると、バランスの崩れや過負荷による他部位のケガにつながることがあります。主治医と相談し、可能であれば体幹や下半身トレーニングを優先しましょう。
Q8. パンチの威力は落ちますか?
A. 適切に治療・リハビリを行えば、長期的にパンチ力が落ちることはほとんどありません。ただし骨折後しばらくは握力や前腕の筋力が低下しているため、一時的に威力が落ちたと感じることがあります。段階的なリハビリと正しいフォームの確認によって、多くの選手は元のパフォーマンスに戻ることができます。
Q9. 後遺症は残りますか?
A. 適切な治療を行えば大きな後遺症は避けられますが、治療が遅れたりリハビリを怠った場合、握力低下や指の動きに制限が残ることがあります。
Q10. 再発を防ぐ方法はありますか?
A. 格闘技や野球など競技特性による骨折は完全には防げませんが、正しいフォームの習得、グローブや手袋などの防具使用、体幹や前腕の筋力強化が予防につながります。
スポーツドクターコラムは整形外科医師 寛田クリニック院長 寛田 司がスポーツ医療、スポーツ障害の症状、治療について分りやすく解説します。
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