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スポーツドクターコラム

第二期 VOL.12「本格派投手に起こりうる大胸筋断裂」

2012/12/25

大胸筋断裂

PDF版はコチラ 2026/03/16 Q&Aと補足情報追記 大胸筋は大きく分けて鎖骨部、胸肋部、腹部の3つに分かれています。広域に広がった筋肉は、それぞれが上腕方向に向かっています。大きな役割としては、上腕の内旋、内転、屈曲に加え、呼気を助けることが挙げられます。 大胸筋断裂はプレー中にももちろん見られる疾患ですが、意外なことに最も多い発生原因はベンチプレスです。そもそも筋肉というのは、持っている力と実際に出せる力がイコールではありません。筋肉そのものが持っている力を生理的限界と言いますが、実際に私たちが使っているのはその70%から80%です。もし100%筋力を使える状態にあれば、筋肉や関節を痛める危険性が高いため、脳の運動中枢が筋力の発揮を抑制しているのです。これを心理的限界と言います。ベンチプレスの例で言えば、通常100キロの重さを持ち上げられる人が120キロを上げようとしたときに、その人が持っている予備能力を越えてしまうと筋肉を痛めることに繋がるのです。 スポーツ時の大胸筋断裂については、一般的に2つの原因を挙げることができます。1つめは体のバランスによるものです。これは主に野球の本格派の投手や投てきの選手に見られますが、物を投げるときには先程指摘した大胸筋の役割のうち内旋、内転、上腕の屈折という動作を用います。しかし、全身で物を投げるときに体幹のバランスが悪いと体の軸がぶれ、いわゆる“体が開いた状態”で投げることになります。ですから大胸筋そのものに問題があるわけではなく、体の開きが早いために心理的限界を超えて大胸筋の力で腕を振るため筋肉を痛めるのです。先程本格派の投手と書きましたが、これはある程度筋力がなければ先にひじや肩を痛める可能性が高く、それを持ちうるのが本格派の投手ということになります。 もう1つのケースとして筋肉の収縮時に過度の負荷が逆方向に掛かった際に負傷することが挙げられます。症状としてはこちらのほうが、大ケガに繋がることが多いです。筋肉が収縮するとは力が入っている状態を指し、そのときに筋肉の長さが縮む(求心性収縮)、筋肉は収縮しているが長さに変化がない状態(等尺性収縮)、筋肉が伸びている(遠心性収縮)などが挙げられます。鉄アレイを持ち上げることを想像してみてください。持ち上げるときの上腕二頭筋の収縮を求心性収縮と言い、もとの状態に戻すときの収縮は遠心性収縮となります。曲げ伸ばしの最中に動きを止めた状態を等尺性収縮と言うのです。遠心性収縮時に内旋しようとした上腕を外旋させられるなど、逆方向に強い力が加わると、筋肉に大きなダメージを与えるのです。例としては柔道の投げ技を返されたときや、サッカーのキック時の軸足などが挙げられます。 発生部位としては筋肉が集まる上腕側がほとんどを占めます。完全断裂の場合は腕に近いところへ筋肉を寄せ、縫い合わせる手術を行います。この場合は完治まで3ヵ月程度が見込まれます。柔道の井上康生のように大胸筋断裂は選手生命を脅かすケガに繋がる可能性があるので、確実な治療と体全体をバランスよく鍛えておくことが必要なのです。 【2026年補足】 大胸筋断裂は、ベンチプレスなど強い負荷がかかる場面やスポーツ動作中に生じうる外傷です。近年は特に大胸筋腱の損傷として評価されることが多く、活動性の高い方では早期診断と治療方針の判断が重要と考えられています。復帰時期は損傷の程度や治療方法によって異なり、自己判断ではなく医師の診察とリハビリ経過に基づいて判断することが大切です。 スポーツドクターコラムは整形外科医師 寛田クリニック院長 寛田 司スポーツ医療スポーツ障害症状治療について分りやすく解説します。
Q1. 大胸筋断裂とはどのようなケガですか?
A. 大胸筋断裂とは、胸の前面にある大胸筋、またはその腱が傷ついた状態を指します。軽い損傷から部分断裂、完全断裂まで幅があり、特に上腕骨へ付着する腱の部分で起こることが少なくありません。 力を入れたときの痛みや筋力低下だけでなく、胸からわきにかけての形の変化がみられることもあります。
Q2. 大胸筋断裂はどのような場面で起こりやすいですか?
A. 大胸筋断裂は、ベンチプレスのように強い負荷がかかる動作で起こりやすいことで知られています。特に、腕を広げた状態から強く押し返す場面や、筋肉に力が入ったまま引き伸ばされる場面で損傷しやすくなります。 スポーツでは、投げる、押し返す、組み合う、倒れまいと踏ん張るといった動作の中で起こることがあります。
Q3. どのような症状が出ますか?
A. 受傷時には、胸の前面からわきの前側にかけて急な痛みが走り、「ブチッ」「バリッ」といった断裂感や違和感を覚えることがあります。その直後から、押す動作、物を抱え込む動作、腕を体の内側へ寄せる動作で力が入りにくくなることがあります。 また、時間がたつにつれて胸から上腕にかけて腫れや内出血が目立つことがあり、胸とわきの境目のふくらみが失われる、へこんで見える、左右差が出るといった外見上の変化に気づくこともあります。 「重いものを押した瞬間に胸の前が痛んだ」「その後すぐ力が入らない」「胸から腕の付け根にかけて内出血や変形が出てきた」といった場合は、大胸筋断裂を疑う目安になります。
Q4. 診断はどのように行いますか?
A. 診断は、受傷状況の確認、痛みや筋力低下の評価、見た目の変化の確認などの診察に加えて、必要に応じて画像検査を行います。 損傷の程度や部位を詳しく評価するためにはMRIが有用とされ、治療方針を決めるうえでも役立ちます。単なる筋肉痛や肉離れと思われて見逃されることもあるため、強い痛みや内出血、変形がある場合は早めの受診が大切です。
Q5. 治療はどのように行われますか?
A. 治療は、断裂の程度、年齢、日常生活や競技レベル、求められる筋力などを総合して決定します。軽症や部分断裂では、安静、固定、痛みの管理、リハビリテーションで経過を見ることがあります。 一方、活動性の高い方や完全断裂では、手術が検討されることが多く、特に急性期の手術は機能回復の面で有利と考えられています。実際の治療方針は損傷の状態によって異なるため、医師の診察に基づいて判断することが大切です。
Q6. 手術をした場合、どのくらいで復帰できますか?
A. 復帰時期は、損傷の程度、手術の有無、競技特性、リハビリの進み方によって異なります。日常生活レベルの改善はそれより早いこともありますが、筋力を十分に回復させてスポーツへ戻るまでには数か月単位の期間を要することが一般的です。 復帰は時期だけで決めるのではなく、痛み、可動域、筋力、動作の安定性を確認しながら判断することが重要です。術後リハビリでは、活動復帰に向けた段階が12〜16週以降に設定されることがあり、近年の報告では競技復帰は平均6か月前後とされる例もあります。ただし、これは一般的な目安であり、実際の復帰時期は必ず医師の診察を受け、主治医の判断に基づいて決定する必要があります。
Q7. 放置するとどうなりますか?
A. 大胸筋断裂を放置すると、押す動作や腕を内側に寄せる動作で筋力低下が残ることがあります。見た目の変化が固定化したり、あとから治療しようとしても修復が難しくなったりする場合もあります。 特に完全断裂や活動量の多い方では、受傷早期に評価を受けることが大切です。受診の遅れは治療選択や結果に影響しうるとされています。
Q8. どのような場合に早めの受診が必要ですか?
A. 胸やわきの前側に急な痛みが出た、直後から内出血が広がってきた、腕に力が入らない、ベンチプレスや投球動作のあとに胸の形が変わった、といった場合は早めの受診を勧めます。 特に、競技を続けている方や筋力を必要とする仕事・運動習慣がある方では、早期に評価することで治療方針を立てやすくなります。自己判断で運動を継続せず、医師の診察を受けることが重要です。

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