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スポーツドクターコラム

No.69「上肢を使う競技に見られる円回内筋症候群」

2009/06/10

円回内筋症候群



上肢にあり肘関節の屈曲や前腕を内側に回す(回内する)筋肉のことを円回内筋と言います。円回内筋の支配神経で上肢腹側の真ん中を通っている正中神経が、肘関節周辺で圧迫されて痛みや痺れ、筋肉の衰えなどの症状を起こす疾患のことを円回内筋症候群と言います。

正中神経には『3つの絞扼点(こうやくてん)』と呼ばれ、筋肉や筋などで圧迫される可能性のある箇所が3つあります。その中で円回内筋症候群は、尺骨頭と上腕頭に分かれた円回内筋の収縮によって、その筋肉を貫くように通る正中神経が圧迫されるため症状が表れます。

スポーツでは、テニスやボーリング、野球など上肢を使う競技でよく見られます。たとえばテニスでは、フォアハンドのときにスピンをかけようと強い力で手首を返し前腕を回内するため、円回内筋の起始部に負荷がかかります。テニスにはバックハンドで発症するテニス肘という疾患もありますが、肘が痺れるといった症状のときは円回内筋症候群を疑いましょう。

また、一般の人にも馴染みの深いボーリングでも起こります。手首を返さずに力任せに真っ直ぐ手を振り上げて投球する人や、投球時に上肢を回外してから回内する人など手首を内側に返す動きをする人に見られます。

スポーツ競技だけではなく、小さなノートパソコンを使用するなど、手を使った作業を繰り返すような一般の人たちにも起こりうる障害疾患なので注意が必要です。

治療としては、薬を服用したり注射を打ったりして症状を和らげることもできますが、一般的には保存療法で治ります。ただ、それ以上に、ストレッチを行うことが何よりの治療法と言えるでしょう。運動する前には固くなっている可能性のある筋肉をほぐすために、手関節を伸展し前腕を回外するなどして筋肉に遊びを作ってあげます。また、屈曲、回内の動きを制限するため、逆の動き(手関節を伸展、回外)をしてキネシオテーピングを用いて固定する方法もあります。
このように競技前後のストレッチとテーピング、そしてアイシングなどを繰り返すことで症状は自然と軽減されるでしょう。

それでも症状が続き、麻痺したり筋肉が痩せてきたりしたときには手術を行います。圧迫の度合いにもよりますが、手術は一般的には円回内筋の付着部である上腕頭を屈筋部とともに切離し、筋肉の緊張を取り除く切離術を行います。普段の生活には遅くとも1ヵ月で戻れますが、筋力を回復させるのにさらに1ヵ月ほどかかるため、競技復帰には約2ヵ月要するでしょう。

しかし早期復帰を望むスポーツ選手にとっては回復までに時間がかかることは大きな問題となります。そのため、筋力の衰えを感じたときにはすぐに、専門医に診てもらうようにしましょう。




スポーツドクターコラムは整形外科医師 寛田クリニック院長 寛田 司スポーツ医療スポーツ障害症状治療について分りやすく解説します。

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