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スポーツドクターコラム

No.69「上肢を使う競技に見られる円回内筋症候群」

2009/06/10

円回内筋症候群 2025/11/13加筆

上肢にあり肘関節の屈曲や前腕を内側に回す(回内する)筋肉のことを円回内筋と言います。円回内筋の支配神経で上肢腹側の真ん中を通っている正中神経が、肘関節周辺で圧迫されて痛みや痺れ、筋肉の衰えなどの症状を起こす疾患のことを円回内筋症候群と言います。近年では、円回内筋症候群は単独で診断されるよりも「前腕部の正中神経絞扼性ニューロパチー」の一亜型として扱われることが増えています。超音波検査(エコー)や高解像度MRIによって、正中神経の腫脹部位を特定し、円回内筋の線維走行と神経の位置関係を非侵襲的に可視化できるようになりました。 正中神経には『3つの絞扼点(こうやくてん)』と呼ばれ、筋肉や筋などで圧迫される可能性のある箇所が3つあります。その中で円回内筋症候群は、尺骨頭と上腕頭に分かれた円回内筋の収縮によって、その筋肉を貫くように通る正中神経が圧迫されるため症状が表れます。近年の解剖研究では個体差が大きく、複数の部位で重複圧迫が起きていることも少なくないと報告されています。 スポーツでは、テニスやボーリング、野球など上肢を使う競技でよく見られます。たとえばテニスでは、フォアハンドのときにスピンをかけようと強い力で手首を返し前腕を回内するため、円回内筋の起始部に負荷がかかります。テニスにはバックハンドで発症するテニス肘という疾患もありますが、肘が痺れるといった症状のときは円回内筋症候群を疑いましょう。近年「フォアハンドのスピン系ストローク」での反復性負荷による正中神経障害が確認されています。加えて、近年はピッチング動作における「肘下がりフォーム」と関連するケースも報告されており、フォーム指導の重要性が強調されています。 また、一般の人にも馴染みの深いボーリングでも起こります。手首を返さずに力任せに真っ直ぐ手を振り上げて投球する人や、投球時に上肢を回外してから回内する人など手首を内側に返す動きをする人に見られます。ボーリングに限らず、近年はPCやタブレット端末の使用姿勢による「前腕の過回内・長時間姿勢保持」が円回内筋症候群の誘因とされるケースも増えています。特に小型ノートPCやスマートフォンでの長時間作業が要因になると指摘されています。現在は「オフィスワーカー型前腕障害」としても注目され、腱鞘炎と誤診されやすい点に注意が必要とされています。 治療としては、薬を服用したり注射を打ったりして症状を和らげることもできますが、一般的には保存療法で治ります。ただ、それ以上に、ストレッチを行うことが何よりの治療法と言えるでしょう。運動する前には固くなっている可能性のある筋肉をほぐすために、手関節を伸展し前腕を回外するなどして筋肉に遊びを作ってあげます。また、屈曲、回内の動きを制限するため、逆の動き(手関節を伸展、回外)をしてキネシオテーピングを用いて固定する方法もあります。近年は「エクササイズ療法」が重視され、ストレッチだけでなく、前腕屈筋群と伸筋群のバランス強化が推奨されています。さらに、テーピングや装具に加え、低出力体外衝撃波療法(ESWT)が有効例として報告されています。 それでも症状が続き、麻痺したり筋肉が痩せてきたりしたときには手術を行います。圧迫の度合いにもよりますが、手術は一般的には円回内筋の付着部である上腕頭を屈筋部とともに切離し、筋肉の緊張を取り除く切離術を行います。 術後のリハビリでは、筋力回復プログラムと神経滑走法(nerve gliding exercise)が標準的に取り入れられています。回復までの期間は競技レベル・年齢により前後しますが、2か月前後が目安とされる点は現在も変わりません。しかし早期復帰を望むスポーツ選手にとっては回復までに時間がかかることは大きな問題となります。そのため、筋力の衰えを感じたときにはすぐに、専門医に診てもらうようにしましょう。

円回内筋症候群に関するFAQ

Q1. 円回内筋症候群と手根管症候群はどう違うのですか?

A. どちらも正中神経の圧迫による障害ですが、圧迫部位が異なります。円回内筋症候群は肘周辺、手根管症候群は手首で障害が起こります。

Q2. 自宅でできる予防法はありますか?

A. 手首を反らす(伸展)+前腕を外にひねる(回外)ストレッチが有効です。長時間のPC作業では小休止も重要です。

ただし、このストレッチで痛みや違和感を感じる場合は決して無理に行わず、先に医療機関を受診してください。

Q3. どの段階で病院に行った方が良いですか?

A. 「しびれが持続する」「物をつかみにくい」「筋肉が痩せてきた」といった症状がある場合は、早めに受診することが推奨されます。

Q4. 手術になるのはどんなときですか?

A. 保存療法で改善しない場合や、神経障害が進行していると判断された場合に検討されます。

Q5. スポーツ選手はどのくらいで復帰できますか?

A. 保存療法なら数週間、手術を行った場合はおおむね2か月前後で復帰可能とされています。あくまでもこれは目安であり、自己判断は避け、必ず医師の指示に従って練習を再開してください。

Q6. 円回内筋症候群は再発しますか?

A. フォーム改善や前腕のストレッチ・筋力バランス調整を怠ると再発する可能性があります。再発予防には動作指導と生活習慣の調整が重要です。

スポーツドクターコラムは整形外科医師 寛田クリニック院長 寛田 司がスポーツ医療、スポーツ障害の症状、治療について分りやすく解説します。

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