スポーツドクターコラム
学校健診で「側弯の疑い」と書かれたら、まず知っておきたいこと
2026/04/17
学校の健康診断で、 検診結果に「側弯の疑いあり」「背骨が曲がっている」などと書かれていたり、 「背骨が少し曲がっているかもしれません」 「一度、整形外科で相談してください」 と言われたりすると、驚かれる保護者の方は少なくありません。 「痛みもないのに、本当に受診が必要なのだろうか」 「前にも指摘されたけれど、経過観察だったから大丈夫ではないか」 「装具や手術と聞くと心配になる」 そのように感じるのは、ごく自然なことだと思います。 まずお伝えしたいのは、学校健診で指摘されたからといって、すぐに重い状態とは限らないということです。 ただ一方で、側弯症は成長期に進みやすいことがあり、治療を考える意味が大きいのもこの成長期です。 思春期特発性側弯症は、10歳ごろから成長終了までの時期に多くみられ、急速な成長期にカーブが進行しやすいとされています。
側弯症とはどのような状態か
側弯症は、背骨が横に曲がるだけではなく、ねじれを伴うことのある状態です。 見た目では、肩の高さが違う、片方の肩甲骨が出て見える、腰のくびれが左右で違う、身体が少し片側に寄って見える、といった変化として気づかれることがあります。 学校健診や着替えのときに初めて気づかれることも少なくありません。
痛みがなくても気をつけたい理由
ここで大切なのは、初期には痛みが目立たないことも少なくないという点です。 本人が元気そうに見えるため、つい「痛くないなら様子を見よう」と考えたくなりますが、側弯症は痛みの強さだけで重さを判断できるものではありません。特発性側弯症は痛みが少なく、学校健診や定期受診で見つかることが多いことも特徴の一つです。成長期のお子さんでは、見た目の変化が小さくても症状が進行していくこともあります。
家庭で気づくサインと見方
ご家庭では、肩の高さ、肩甲骨の左右差、腰のくびれ、服のずれ方などが気づくきっかけになります。 また、前かがみになったときに背中や肋骨の高さに左右差が出るかどうかを見る方法も、側弯症を疑う手がかりになります。近年の研究でも、側弯症の早期発見では、見た目の左右差と前かがみで現れる背中の左右差が重要な手がかりとされています。学校検診でも実施されることのあるアダムズ・フォワード・ベンド・テストは、現在でも代表的なスクリーニング方法として広く用いられています。 ただし、これはあくまで「気づくきっかけ」です。セルフチェックだけで診断はできません。 学校健診で指摘された、あるいは前かがみで左右差が気になる、という場合は、自己判断で終わらせず、整形外科で相談することが大切です。
経過観察は「放置」ではありません
ここは、とても誤解されやすいところです。 経過観察は、異常なしという意味ではありません。 今の時点ですぐに装具や手術が必要ではない、しかし成長とともに変化しないか見ていきましょう、という意味で経過観察になることがあります。 側弯症の対応は、基本的に経過観察、装具治療、手術を柱に考えます。 そして保護者の方に特に知っておいていただきたいのは、成長期であれば、1年という時間が決して短くないということです。思春期特発性側弯症のカーブは急速な成長期に進行しやすいため、学校健診で指摘されたのに受診を先延ばしにしたり、前に経過観察と言われたまま翌年まで受診しなかったりすると、その間にカーブが進んでしまう可能性があります。
放置した場合に起こりうること
側弯症は、学校健診で見つかった段階では痛みが目立たないことも少なくありません。 そのため、「本人も困っていないし、しばらく様子を見よう」と考えたくなることがあります。 ただ、近年までの知見では、未治療の思春期特発性側弯症では、将来、背中や腰の痛みが出やすくなることや、肩や背中の左右差など見た目の変化が目立ちやすくなることが示されています。さらに、胸の部分のカーブが大きい場合には、呼吸機能に影響することがあります。 脊柱側弯症研究学会(SRS)も、未治療の思春期特発性側弯症では、背部痛、見た目の問題、大きな胸椎カーブでの呼吸症状が起こりうると説明しています。 また、大きなカーブは成長後も進行しやすく、脊柱側弯症研究学会(SRS)の患者向け資料では、50度を超えるカーブは成人後も進行しうると説明されています。 つまり、今は軽く見えていても、成長期をまたいで放置すると、将来の痛み、見た目の悩み、姿勢の崩れ、場合によっては呼吸への影響につながることがあります。 だからこそ、学校健診で指摘された時点で一度きちんと確認しておく意味があります。
成長期に治療の意味が大きい理由
側弯症の治療では、単に今の角度だけを見るのではなく、成長がどれだけ残っているかが大きな意味を持ちます。 とくに装具治療は、成長している子どもに対して、これ以上カーブが悪化しないよう抑えることを目的に行われます。米国整形外科学会(AAOS)は、カーブが25~45度で、なお成長が残っている場合に装具が勧められることがあると説明しており、装具は既存のカーブを完全にまっすぐにするというより、悪化を防ぐための治療と位置づけています。 また、近年までの総説でも、思春期特発性側弯症に対する硬性装具治療そのものの有効性は支持されています。どの装具コンセプトが常に最良かまでは断定できないものの、少なくとも成長期に進行抑制を目指す治療として装具が重要であることは一貫しています。 ここで知っておいていただきたいのは、側弯症で使う装具にはいくつか種類があるということです。 ただ、保護者の方にとって大切なのは、名前の違いそのものよりも、いつ装着する装具か、どのようなカーブに向くか、成長期に進行を抑えるための装具かという違いです。近年の側弯症診療でも、装具治療は成長が残っている時期に、カーブの進行を抑えるために行う治療と位置づけられています。 もっともよく知られているのは、ボストン装具です。 わきの下までの高さの体幹装具で、日中を含めて長時間装着するタイプです。現在でも代表的な装具の一つとされています。 これに対して、ウィルミントン装具も同じく体幹型の装具ですが、患者さんごとの体型に合わせて作るタイプとして知られています。考え方はボストン装具に近いものの、作り方やフィット感に違いがあります。 また、シャルストン装具やプロビデンス装具は、主に夜間装着型として知られています。 寝ている間に強めに矯正する考え方の装具で、カーブのタイプや大きさによって適応が選ばれます。日中ずっと装着する装具に比べて生活上の負担が少ない面はありますが、すべての側弯に向くわけではなく、症例の選び方が重要です。 近年は、シェノー系装具のように、背骨の曲がりだけでなく、体幹のねじれも含めて3次元的に矯正しようとする考え方の装具も広く知られるようになっています。ただし、こうした装具は設計や調整の質の影響が大きく、装具名だけで優劣が決まるわけではありません。比較研究では、Rigo Cheneau 系装具が Boston-style 装具より良好だった報告もありますが、Boston 装具と Cheneau 装具で有意差が出なかった報告もあります。 要するに、装具の違いは大まかに言うと、 日中も長時間つけるタイプか、夜だけつけるタイプか どの部位・どのカーブに向くか 個別設計の考え方がどこまで強いか にあります。 ただ実際には、装具の種類そのもの以上に、お子さんの年齢、成長の残り具合、カーブの角度、カーブの位置、そしてきちんと続けられるかが大切です。装具治療は「背骨を完全に治す」ためというより、成長期に悪化しないよう抑えることが目的です。 そのため、側弯症では「もう少し様子を見てから」ではなく、治療のチャンスがある時期を逃さないことが大切になります。
側弯症の治療と向き合い方
治療は大きく分けて、経過観察、装具治療、手術です。 軽いカーブで、すぐに進行の危険が高くない場合は、定期的に確認しながら経過をみます。成長が残っていて、一定以上の進行リスクがある場合には装具治療が検討されます。さらにカーブが強い場合や進行が続く場合には、手術が選択肢になります。一般に、45~50度以上は手術が検討されることが多いとされています。 ここで知っておいていただきたいのは、成人後にも治療法はあるが、子どもの時期より簡単とは限らないということです。 近年の知見では、成人後の側弯症では、子どもの時期のように進行を抑える治療よりも、痛み、姿勢の崩れ、動きにくさ、日常生活への影響に応じた対応が中心になると考えられています。脊柱側弯症研究学会(SRS)の成人脊柱変形の非手術治療文書でも、成人では痛みや機能低下への対応が重視されています。 さらに、成人の脊柱変形手術は、長い範囲の固定や骨切りが必要になることがあり、脊柱側弯症研究学会(SRS)の Quality and Safety 資料でも、成人脊柱変形手術は多量出血を伴うことがあり、50度超のCobb角、骨切り予定、6椎間を超える固定などが大量出血のリスク因子として挙げられています。 つまり、成人後にも治療はできるが、成長期に比べると、より負担の大きい治療になることがあるという点は知っておいてよいと思います。だからこそ、学校健診で指摘された段階で一度きちんと確認し、必要なら成長期のうちに対応を考えることが大切です。
治療が長期間にわたることもある病気です
ここで知っておいていただきたいのは、装具治療は短期間で終わるものではないということです。 側弯症の診療は、風邪のように数日で終わるものではありません。経過観察であっても、成長が落ち着くまで定期的にみていくことがありますし、装具治療になれば、日常生活の中で長く付き合っていくことになります。米国整形外科学会(AAOS)では、装具は背骨の成長が止まるまで装着し、6~12か月ごとに経過を確認すると説明しています。 保護者の方にとっても、お子さん本人にとっても、最初は戸惑いが大きいと思います。 ただ、側弯症は一度の診察で終わる病気ではなく、成長を見ながら長く向き合う病気と考えたほうが実際に近いです。早い段階で正しい説明を受け、無理のない形で通院や治療を続けられる環境を整えることが大切です。
よくあるご質問(Q&A)
Q1. 学校健診で側弯の疑いと言われたら、すぐ受診したほうがよいですか?
A. はい、一度は整形外科で相談したほうがよいでしょう。 学校健診で指摘されたからといって、すぐに重い状態とは限りませんが、 思春期特発性側弯症は成長期に進行しやすいことがあります。
とくに成長が残っている時期は、経過観察でよいのか、装具治療を考える段階なのかを 早めに見極めることが大切です。
Q2. 痛みがなければ様子を見てもよいですか?
A. 痛みがないから大丈夫、とは言い切れません。 側弯症は、初期には痛みが目立たないことも多く、学校健診や見た目の左右差で見つかることがあります。
成長期のお子さんでは、本人が困っていないように見えても進行することがあるため、 痛みの有無だけで判断せず、まず現在の状態を確認することが大切です。
Q3. 家庭ではどこを見ればよいですか?
A. 家庭では、肩の高さ、肩甲骨の出方、腰のくびれ、服のずれ方などの 左右差が手がかりになります。
さらに、前かがみになったときに、背中や肋骨の高さに左右差が出るかを見る方法も参考になります。 ただし、セルフチェックだけで診断はできません。気になる左右差があれば、受診のきっかけにしてください。
Q4. 経過観察とは異常がないという意味ですか?
A. いいえ、経過観察は「異常なし」という意味ではありません。 現時点ですぐに装具や手術が必要ではないものの、 成長とともに変化しないかを見ていく必要があるという意味です。
成長期では1年は決して短くありません。 前回は軽かったとしても、その後の成長で進行することがあるため、 指示された時期にきちんと再診することが大切です。
Q5. 装具治療はいつ意味がありますか?
A. 装具治療が特に意味を持つのは、まだ成長が残っている時期です。 一般に、成長中でカーブが25~45度程度の場合に装具治療が検討されます。
装具は、すでにあるカーブを完全にまっすぐにする治療というより、 これ以上悪化しないよう抑えるための治療です。
Q6. 側弯症をそのままにすると、将来どうなることがありますか?
A. 近年までの知見では、未治療の側弯症では、将来、 背中や腰の痛みが出やすくなることや、 肩や背中の左右差など見た目の変化が目立ちやすくなることが示されています。
さらに、胸の部分のカーブが大きい場合には、呼吸機能に影響することがあります。 大きなカーブは成人後も進行しうるため、早めに状態を確認しておくことが大切です。
Q7. 側弯症の治療はどのくらい続きますか?
A. 側弯症の治療は、成長が安定するまで続くことが多いです。 経過観察であっても、成長が落ち着くまで定期的に確認していくことがありますし、 装具治療になれば、一般には背骨の成長がほぼ止まるまで継続して装着します。 一般に女子は14歳ごろまで、男子は16歳ごろまで急速に成長すると説明しています。 もちろん実際には、初経の時期や身長の伸び方、骨の成熟の程度によって前後します。 そのため、側弯症は「一度受診して終わり」ではなく、 成長を見ながら長く向き合う病気として考えるほうが実際に近いでしょう。
Q8. 成人になってからでも治療はできますか?
A. はい、成人後でも治療はできます。 ただし、子どもの時期のように「成長中の進行を装具で抑える」という治療の意味は小さくなり、 成人では痛み、姿勢の崩れ、動きにくさ、日常生活への支障に応じた対応が中心になります。
さらに、成人で手術が必要になる場合は、長い範囲の固定や骨切りが必要になることがあり、 子どもの時期より治療の負担が大きくなることがあります。
Q9. 病院でボストン装具を勧められました。シェノー装具の方がよいですか?
A. かかりつけ医は、お子さんのカーブの位置や大きさ、年齢、成長の残り具合などを見て、 ボストン装具を提案されたのだと思います。まずは、 なぜその装具が勧められたのかを確認されるのがよいでしょう。
側弯症の装具にはいくつか種類がありますが、 どの装具が最適かは一律には決まりません。 近年の研究では、シェノー系装具が良好な成績を示した報告もありますが、 ボストン装具と比較して明らかな差が出なかった報告もあります。 現在の考え方では、装具名そのものよりも、 カーブのタイプ、成長段階、体への適合、継続して装着できるかが大切です。
飛翔会の整形外科クリニック












