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スポーツドクターコラム

No.71「競技力の低下に繋がる仙腸関節炎」

2009/08/10

仙腸関節炎

脊椎の最下部にあり、仙骨と腸骨の間で体重を支えている関節を仙腸関節と言います。7椎の頸椎と12椎の胸椎、そして5椎の腰椎とで形成された脊椎は、それぞれが少しずつ動くことで全体がスムーズに曲がっていますが、最下部で支える仙腸関節は体の前後屈でわずかに動き腰に柔軟性を与える働きがあり、非常に繊細な関節と言えます。

その動きが阻害され腰に痛みを感じる症状を仙腸関節炎と言います。関節の炎症により痛みを生じる障害であって、ヘルニアのような神経症状は全く伴いません。
【2025年注訳:近年の研究では、仙腸関節由来の痛みは腰椎椎間板疾患や股関節疾患と臨床症状が重なることが多いとされ、鑑別診断にMRIや超音波ガイド下でのブロック注射を併用することが推奨されています。】

発症原因には2つあり、ひとつはスキーやスノーボードの転倒などで直接衝撃を受け、仙腸関節の動きが制限されることで他の関節に歪みが生じて炎症を引き起こす場合。もうひとつはスポーツ全般に言えることですが、脊椎のいずれかの関節の動きが悪化し、それを最下部の仙腸関節が代償しようとする場合です。仙腸関節はとても小さい関節なので、わずかな歪みでも炎症を引き起こしてしまいます。

慢性的に仙腸関節に負担のかかる人は、慢性関節炎になっている場合が多く、そうなると仙腸関節の動きが改善しない可能性もあるので注意が必要です。
【2025年注訳:慢性例に対しては、近年では高周波熱凝固術(ラジオ波治療)や関節内へのPRP注入といった再生医療的アプローチも選択肢に加わりつつあります。】
痛みを我慢して競技を続けていると、股関節や膝、足首にまで痛みが生じ、さらには首痛や頭痛などと二次的、三次的に痛みが発展してしまいます。まず専門的な知識を持った国家資格取得者に徒手療法で関節の動きを確認してもらいましょう。
【2025年注訳:理学療法士や整形外科医による徒手療法に加え、運動療法での体幹安定化(コアトレーニング)や股関節可動域改善が、仙腸関節炎の再発予防に重要であると強調されています。】

民間療法の中には1箇所だけ診て原因を断言することがありますが、他の関節の歪みが原因で生じる可能性も十分にあるので全身を見なければいけません。欧州を起源とする徒手療法は施術者が直接身体に触れて痛みや機能を改善させるもので、特にドイツでは古くから学問として受け継がれ今でも多くの医者が取り入れています。日本ではあまり馴染みがないものの、徒手療法はFIFA(国際サッカー連盟)の治療プログラムのベースとなっているほど、欧州では広く知られています。

身体のバランスの悪い選手は、仙腸関節に負担をかける可能性が高いと言われています。仙腸関節炎は各競技のフォームを乱す要因になり競技力の低下に繋がりますので、まずは脊椎全体の動きを整えることが大切です。

治療法は一般的に安静にすることです。ただ、スポーツ選手の場合は安静にすることができないので、鎮痛剤を飲んだりアイシングをしたりします。
【2025年注訳:最新のガイドラインでは、単なる安静よりも「痛みの範囲内での適度な運動」を推奨する傾向が強まっています。血流や関節機能を保つことで、回復期間の短縮につながると考えられています。】
痛みがひどい場合には仙腸関節に注射を打って痛みを抑えることもあります。過去には手術という例もありましたが、事前に発見し治療すれば、まず手術になることはありません。少しでも違和感を感じ調子が悪いと思ったときには、すぐに専門医に診てもらいましょう。

スポーツドクターコラムは整形外科医師 寛田クリニック院長 寛田 司がスポーツ医療、スポーツ障害の症状、治療について分りやすく解説します。

仙腸関節炎 Q&A

Q1. 仙腸関節炎の痛みの特徴を教えてください

A. 腰の奥やお尻の片側に鈍い痛みとして現れ、長時間の立位・座位片足荷重で強くなります。椎間板ヘルニアのようなしびれ坐骨神経痛は伴わないのが特徴です。階段の昇降・寝返り・片足立ちで誘発されやすく、「腰そのものより骨盤の付け根が痛い」と感じることがあります。関節部(ベルトのやや下)の圧痛が手がかりです。最終診断は医師による画像検査やブロック注射で確認します。

Q2. 仙腸関節炎はどのように診断されるのですか?

A. 問診・触診で痛み部位や誘発動作を確認し、補助的にX線MRIを用います。近年は超音波ガイド下の診断的ブロック(局所麻酔注射で痛み変化を確認)が有効とされています。

Q3. 仙腸関節炎はどのくらいで治りますか?

A. 軽度なら数日〜数週間で改善することもありますが、慢性化すると数か月以上かかる場合があります。スポーツ選手では完全安静が難しいため、痛みの範囲内で運動を調整しつつ治療するケースが多く、経過には個人差があります。

Q4. 再発を防ぐためにはどうすればよいですか?

A. 股関節・腰椎の柔軟性を保ち、体幹の安定性を高めるのが基本です。片側に負担が偏るフォームの修正、同一姿勢を避ける工夫、日常的なストレッチ筋力トレーニングの継続が有効です。

Q5. 仙腸関節のストレッチはどのようにするのですか?

A. 関節自体はわずかしか動かないため、周囲筋の柔らかさを高めて負担を減らします。代表例:

  • 腸腰筋ストレッチ:片膝立ちで後ろ脚の股関節を伸ばすように前方へ体重移動。
  • 殿筋ストレッチ:仰向けで膝を抱え胸に引き寄せる/足首を反対膝に掛けて前屈。
  • ハムストリングス:座位で片脚を伸ばし前屈して太もも裏を伸ばす。

反動はつけず、呼吸を止めないのがポイント。自己流で強度を上げると悪化の恐れがあるため、医師や理学療法士の指導のもとで行ってください。

Q6. 仙腸関節の可動域はどのようにしてあげるのですか?

A. 直接大きく動かすのではなく、原因ポイントを特定し専門家の徒手療法で周囲の緊張を和らげます。あわせて股関節・腰椎の柔軟性改善体幹安定化(コアトレ)を実施。近年は仙腸関節そのものに無理な刺激を与えず、周辺関節・筋群を整えることが可動域改善と再発予防につながると考えられています。

飛翔会の整形外科クリニック


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