スポーツドクターコラム
第二期 Vol.14 「ボルトが苦しんだ脊柱側弯症」
2013/02/01
脊柱側弯症
PDF版はコチラ 2026/02/18 Q&A追記北京、ロンドン五輪で男子100メートルを連覇したウサイン・ボルトが、脊柱側弯症だということをご存知でしょうか。そして彼の症状は、すでに完治したわけではなく、現在もその障害と向き合い競技を続けています。
ボルトは17歳で世界ジュニア新記録を記録するなど、若くしてその才能を認められた存在でしたが、その後左ハムストリングのケガに悩まされました。そしてその原因が脊柱側弯症だったのです。
脊柱側弯症とは、本来まっすぐであるはずの脊柱が、S字に弯曲している状態を指します。一つひとつの椎体が立体的に少しずつずれていくことで歪みを生じます。脊柱変形には前後左右それぞれに弯曲していくものがありますが、一般的には左右に曲がる側弯症が最も多いとされています。 ボルトのケースでは、脊柱側弯症による体のずれが、右肩が極端に下がるランニングフォームを生み出していました。驚くべきことに、走行時の左右のストライドには約20センチもの差があったとされています。 この左右差による体への負担が、左ハムストリングの故障を頻発させる一因になっていたと考えられます。
治療法としては、整体やマッサージ、コルセットの装着などにより、弯曲の矯正や進行を遅らせることを目指します。また、胸椎を例にとると、弯曲が50度を超える場合には手術が検討されます。 胸椎は側弯症が発生しやすい部位であり、進行すると臓器を圧迫し、肺や心臓の機能低下を招く恐れがあります。腰椎側弯症でも同様に、椎間板への負担が増すことで腰痛や足のしびれの原因となります。 10度程度の弯曲では外見上ほとんど分かりませんが、症状が進行すると左右の乳房の高さが異なったり、背中が突出するなど、美容的な問題を引き起こすことがあります。こうした変化は、特に女性にとって精神的な負担となる場合があります。
脊柱の弯曲については、原因が明確でないものがほとんどです。姿勢の悪さなども要因の一つとして考えられることはありますが、それを直接の原因と断定することは現時点ではできません。 欧米では乳幼児に多く、日本では思春期に多いのが特徴で、男性よりも女性に多く見られる傾向があります。
最初に述べたように、ボルトが実際に脊柱側弯症から完全に回復したかと言われれば、そうではありません。それはロンドン五輪で見せた独特のランニングフォームからも推察されます。 実際に診察したわけではないため断定はできませんが、17歳で側弯症が指摘されて以降、症状は大きく進行していない可能性も考えられます。 また、ボルトは自身の走りを完成させるため、医学の学問体系が進んでいるドイツでトレーニングを行ったといわれています。そこで治療そのものを行ったというよりも、体に負担をかけない体づくりや、体型に合ったフォームを模索したのでしょう。体を支える体幹部を徹底的に鍛えることでバランスを整え、一流の競技者としての道を切り開いていったのです。
今後、人類がどこまで100メートルのタイムを縮めていくのかは分かりませんが、もし脊柱側弯症という障害がなく、正しいフォームで走っていたらと考えると、人類未到達の記録への想像は尽きません。
スポーツドクターコラムは整形外科医師 寛田クリニック院長 寛田 司がスポーツ医療、スポーツ障害の症状、治療について分りやすく解説します。
Q1. 脊柱側弯症とはどのような状態ですか?
A. 脊柱側弯症とは、本来まっすぐである脊柱が左右に弯曲し、さらに椎体が立体的にねじれた状態を指します。単なる姿勢の癖とは異なり、骨そのものの配列に変化が生じている点が特徴です。
なお、脊柱側弯症だけに特有で、他の疾患では起こらない自覚症状は、医学的にはほとんどありません。 そのため、初期には自覚症状がないまま経過することも多く、検診や外見の変化をきっかけに指摘されることがあります。
Q2. なぜ脊柱側弯症が起こるのですか?
A. 多くの脊柱側弯症は原因がはっきりしない「特発性」とされています。姿勢や生活習慣が直接の原因と断定されることはなく、発症の仕組みについては現在も完全には解明されていません。
Q3. どの年代に多く見られますか?
A. 日本では思春期に指摘されることが多く、学校検診などで発見されるケースがあります。男女比では女性に多い傾向がありますが、年齢や性別によって必ず起こるものではありません。
Q4. 症状はどのように現れますか?
A. 軽度の場合は自覚症状がほとんどなく、見た目の変化も分かりにくいことがあります。 進行すると、左右の肩や腰の高さの違い、背中の突出、腰痛や疲れやすさなどが現れることがあります。
Q5. 放置するとどうなりますか?
A. 側弯が進行すると、脊柱や椎間板に負担がかかり、腰痛やしびれの原因になることがあります。 胸椎の側弯が高度になると、肺や心臓などの臓器機能に影響を及ぼす可能性も指摘されています。
Q6. どのように診断しますか?
A. 診察による身体所見に加え、レントゲン検査で脊柱の弯曲角度や形状を評価します。 必要に応じて、進行の有無を確認するために定期的な画像検査を行います。 診断や経過観察は、医師の判断に基づいて行われます。
Q7. 治療はどのように行われますか?
A. 治療は弯曲の程度、年齢、進行の速さ、症状の有無などを総合的に考慮して決定されます。 軽度の場合は経過観察や運動療法、装具(コルセット)による管理が行われることがあります。 弯曲が高度で進行が強い場合には、手術が検討されることもあります。
Q8. 競技や運動は続けてもよいですか?
A. 状態によって異なります。軽度で症状がない場合は、運動が制限されないこともありますが、 無理な負荷がかかると悪化する可能性もあります。 自己判断で続けず、必ず医師の診察・評価に基づいて判断してください。
Q9. 受診の目安はありますか?
A. 肩や腰の高さの左右差が気になる、背中の形が変わってきた、 腰痛やしびれが続く場合は、整形外科での相談を勧めます。 早期に評価することで、進行状況に応じた適切な対応が可能になります。
飛翔会の整形外科クリニック












