スポーツドクターコラム
骨粗しょう症治療薬は本当に“自分に合った”ものですか?
2025/08/06
骨がもろくなっているから薬を出します――そう言われて処方された薬、あなたはそれが本当に自分に合ったものだと思っていますか?
骨粗しょう症の治療薬には、実はさまざまな種類があります。半年に1回の注射で済むもの、毎日飲むタイプ、骨が壊れるのを防ぐ薬、逆に骨を作る力を高める薬もあります。どれを選ぶかで、効果も副作用も、そして続けやすさも大きく変わってきます。
たとえば、プラリアという注射薬は半年に1回の皮下注射で済み、背骨も足のつけ根も含めて幅広い骨折を防いでくれる、非常に効果の高い薬です。ただしこの薬には一つ落とし穴があります。中止した後、急激に骨密度が下がり、椎体骨折のリスクが一気に高まるケースがあるのです。つまり、一度始めたら続ける前提で使う薬なのです。
一方、ボンビバという薬は月に1回の飲み薬や注射薬で、プラリアほど強力ではないかもしれませんが、継続のしやすさや費用面で選ばれることがよくあります。背骨の骨折には効果がありますが、大腿骨など他の部位ではエビデンスがやや弱めです。
フォルテオという薬もあります。これは自己注射を毎日行う必要がありますが、骨を新しく作る作用があり、骨密度が非常に低い方や、すでに複数回の骨折歴があるような重症のケースには適しています。注射と聞くと身構えてしまうかもしれませんが、実際はペン型のデバイスで比較的簡単に使えますし、副作用も少ないとされています。
どれも一長一短。だからこそ、自分の体の状態をよく知ることが重要になります。 ここで参考になるのが、薬ごとの効果を比較した表です。
分類 | 一般名(商品名) | 骨密度 | 椎体骨折 | 非椎体骨折 | 大腿骨近位部骨折 |
---|---|---|---|---|---|
BP系 | アレンドロン酸(フォサマック等) | A | A | A | A |
BP系 | リセドロン酸(アクトネル等) | A | A | A | A |
BP系 | イバンドロン酸(ボンビバ) | A | A | B | C |
抗RANKL抗体 | デノスマブ(プラリア) | A | A | A | A |
骨形成促進薬 | テリパラチド(フォルテオ) | A | A | A | C |
骨形成+吸収抑制 | ロモソズマブ(イベニティ) | A | A | B | B |
この表にある「A」「B」「C」は、それぞれの薬がどれだけ効果を示すかのエビデンス評価です。Aは信頼性が高く効果も十分にあるという意味で、Bはやや限定的、Cは現時点での効果が不明瞭または乏しいという評価です。(※各薬剤の個別解説は既述の通り)
骨粗しょう症治療薬は、全体として非常に効果が高い一方で、いくつかの共通する副作用リスクがあることも事実です。 特に、ビスホスホネート製剤(アレンドロン酸、リセドロン酸、イバンドロン酸)やデノスマブ(プラリア)では、まれに「顎骨壊死」や「非定型大腿骨骨折」が起きる可能性があり、長期使用時には注意が必要です。また、プラリアやフォルテオでは「低カルシウム血症」のリスクもあり、定期的な血液検査が求められます。ロモソズマブ(イベニティ)においては心血管イベント(心筋梗塞や脳卒中)のリスクが指摘されており、既往歴のある方は特に慎重な判断が求められます。
しかしこれらの副作用はどれも「まれ」なものであり、適切なモニタリングや予防策を講じれば、安全に使用できる薬がほとんどです。より安全性を重視したい方は、「骨粗鬆症マネージャー」が在籍する医療機関での治療を検討するのも一つの方法です。骨粗鬆症マネージャーとは、日本骨粗鬆症学会が定めた専門的な教育プログラムを修了し、認定試験に合格した専門資格者です。治療選択や生活指導において、より専門的かつ個別性の高い対応が期待できます。
つまり、「薬が怖いから使わない」ではなく、「自分に合った薬を、正しい方法で使う」ことが骨折予防の鍵なのです。
こうした薬の選び方を考えるときに大切なのが、「今の自分の骨の状態をちゃんと知っておくこと」です。骨密度検査はそのための重要な指標になります。
腰椎や大腿骨の骨密度を測るDXA(デキサ)法は、骨粗しょう症の診断と薬剤選択において標準とされている方法です。すでに圧迫骨折などがある場合には、DXAを行わなくても診断がつくこともありますが、治療効果を客観的に把握するにはやはり骨密度のデータが役立ちます。
最近では全国の自治体で骨密度検診への公費補助制度が広がりつつあります。広島市では、20歳以上の女性、40歳以上の男性を対象に、DXA法による骨密度検査を1,000円前後で受けられる制度があります。一定の条件を満たせば、無料になることもあります。お住まいの地域によって制度は異なりますが、まずは市町村の保健センターや広報を確認してみるとよいでしょう。検査は骨折を防ぐ第一歩。数値を知ることが、薬を「選ぶ」のではなく「納得して選ぶ」ための大切な鍵になります。
よくあるご質問(Q&A)
Q1. プラリアを途中でやめたらどうなるのですか?
A. プラリアは骨吸収を強力に抑制しているため、中止後に骨密度が急激に低下し、背骨の骨折が多発するケースもあります。ビスホスホネート製剤などへの代替が必要です。必ず主治医と相談のうえ、計画的に進めてください。
Q2. フォルテオの自己注射は難しいですか?
A. ペン型注射器で操作はシンプルです。医療機関での初回指導後は、インスリン注射に近い感覚で使用できます。1〜2週間で慣れる方が多いです。
Q3. 飲み薬だけで骨粗しょう症を治すことはできますか?
A. 軽度〜中等度であれば経口ビスホスホネート製剤のみで十分な効果が得られることがあります。ただし骨折歴がある、骨密度が極端に低い場合は注射薬の併用や切替が望ましいことがあります。
Q4. 圧迫骨折があるなら、骨密度検査は不要ですか?
A. 診断だけなら不要な場合もありますが、治療方針の決定や経過観察には有用です。他部位の骨折リスク評価や治療効果の把握のため、DXA法での測定を推奨します。
Q5. 痛みはないが骨密度が心配。検査だけ保険で受けられますか?
A. 痛みや骨折がなくても検査は可能です。保険診療としての骨密度検査は医師が医学的必要性ありと判断した場合に限られますが、自治体の公費検診が利用できることがあります。例:広島市では自覚症状がない場合でもDXA検査を千円前後で受けられ、条件により無料となる場合も。詳細はお住まいの自治体にご確認ください。
Q6. 骨粗しょう症治療薬の副作用は自分で気づけますか?
A. 兆候に気づける場合があります。例:
- 太ももの外側の鈍痛が数日持続:非定型大腿骨骨折の前兆の可能性
- 口内の腫れ・治りにくい傷:顎骨壊死の兆候の可能性
- しびれ・けいれん:低カルシウム血症の可能性
身体の小さな変化にも注意し、気になる症状があればすぐ主治医に相談してください。
Q7. 治療のゴールは?どれくらい続ければいいですか?
A. ゴールは骨折予防と健康寿命の延伸です。原則数年単位の継続が必要で、状況により3年以上〜5年以上の長期管理となる場合も。改善後の自己中断は危険で、特にプラリアを急に中止すると骨密度の急落・椎体骨折の多発が報告されています。
医師が休薬/終了を検討する目安:
- YAM 80%以上に回復
- 数年間骨折なし
- 運動・食事・転倒予防などの習慣が継続
- 骨代謝マーカー等に大きな異常なし
中止や切替は必ず医師と相談のうえ、段階的に行ってください。
Q8. 骨粗しょう症の治療薬はどう選べばいいですか?
A. 年齢・骨密度・骨折歴・持病・副作用リスク、投与経路(注射/内服)や間隔、生活スタイル適合性などを総合的に判断します。主治医と相談し最適な薬剤を選択してください。
Q9. 薬以外で骨を強くする方法はありますか?
A. はい。薬物治療と並行して次が有効です:
- 食事:カルシウム・ビタミンD・たんぱく質をバランスよく
- 日光浴:適度な屋外活動でビタミンD産生を促進
- 運動:バランス運動・筋力トレーニング・転倒予防
これらの継続は薬の効果を高め、治療終了後の骨折リスク低減にもつながります。

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